くすぐりフェチによる創作ブログ。ここに書くのは雑多なことばかり。『はじめに』に作品へのリンクがあります。
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Caption: 『あなた』と『彼女』の二人の間に起こった、夏祭りでの出来事。
Tag: you/f 足裏


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 もしも形容をするならば、彼女はまさに向日葵のような女性でした。

 強い女性でした。
 いつでも明るくあることを忘れない。彼女の元気いっぱいの笑顔に、あなたは何度引き込まれ微笑みを返したことでしょう。彼女の毅然とした佇まいに、あなたは何度奮い立たされ生きる気力を得たことでしょう。
 彼女の心は、いつでも光の方を向き、その温もりを抱き続けている。彼女は、強い女性でした。

 だけど、彼女はそれでいて、少し我がままな女性でもありました。
 自由で気まま。少しぐらいの無理は、その眩しい笑顔で押し通してしまう。周りもそれにはやれやれと溜息を付くばかり。
 彼女だって、節度はわきまえています。だけど、何故かあなたにだけ対しては遠慮がない。度々あなたに使い走りをさせ、あなたを色々な場所に連れ回す。そんな毎日に、あなたは度々顔をしかめることになったのです。


 だけど、あなたと彼女はいつも一緒。
 それはきっと、何だかんだで言っても、あなたは彼女のことを信頼しているからなのでしょう。
 そして、それは彼女も……。

 これは、そんなあなたと彼女の二人に起こった、とある夏の出来事。

 ~・~・~

「ほら、早く早く! もたもたしてたら、始まっちゃいますよ」

 彼女の明るい呼び声が、辺りの喧騒を遮ります。あなたは彼女の膨れ面を尻目に、ずしりと重たい左腕の時計を覗き込みました。
 午後の六時。夏の空はまだ明るい。西に沈みかけた太陽は、今にも再び南へと上っていってしまうのではないかという程に眩しいのでした。
 ――そんなに急ぐ必要があるのか――あなたが問うと、彼女は左手にぶら下げた水風船を叩きながら答えます。

「こんな人ごみの中じゃ、花火もろくに見られないでしょう? 私、とっておきの穴場知ってます。少し歩くから、そろそろ行かなきゃ始まっちゃうんですよ」

 ボンボンと鈍い音を立てて、あちらこちらへと優柔不断に跳ねまわる風船は、人ごみを見つめて溜息を付いた彼女の苛立ちを映し出しているかのようでした。


 今晩は、年に一度の夏祭り。
 あなたは彼女に駆り出され、もとい誘われ、会場であるこの大きな神社に足を運んでいるのでした。
 境内を見渡せば、そこら中に人、人、人。老若男女が集う巨大な川は、今にも石畳という堤防を乗り越えてしまいそう。堤防を取り囲む色取り取りの屋台から漂う香りが、飛び出そうとする飛沫を辛うじて流れの中に押し留めているようでした。
 その中のたった一滴となってさ迷い歩いたあなたは、まだ夏祭りの顔である花火を見てもいないというのに、もうへとへとでした。

 彼女はあなたの傍に駆け寄り、あなたが両腕一杯に持っている袋を強引に開いて覗き込みます。

「……焼きそば、お好み焼き、お水。それと……、うん、揃ってる。じゃ、運んでください」

 彼女に使い走りをされて帰ってきた矢先、それはなんて不しつけな言葉でしょうか。あなたは思わず、悪びれもしない彼女をもの言いたげな目で見つめてしまいます。

 あなたが彼女に逆らえないのは、その可愛らしい容姿も影響しているのかもしれません。
 彼女の強かさが垣間見える少し釣りがちの眼からは、長いまつ毛がくるんと丸まって伸びています。肌は健康的な薄肌色、唇はそれと調和する美しい桃色、その艶やかさはまるで丁寧に折り重ねた花弁を連想させます。
 少しばかり茶色掛かって見える黒い髪は、絹糸を束ねたかのように腰の上まで滑らかに伸びています。
 あなたの両手にこんなにも食べ物を買わせているというのに、彼女の身体は細く小さい。あなたの首程の高さから見上げて敬語で話す彼女は、年上というよりは年下、妹というよりは後輩のような印象を受けました。

 そんな身体も今は、花柄模様が上品な水色の美しい浴衣に包まれているのです。雲ひとつない夕日に照らされて、下駄をカラコロと鳴らす姿はどこか繊細。その身体をぎゅっと握ってしまえば、ガラス細工の様に脆く崩れ落ちてしまうのではないかと錯覚すらしてしまいます。


「運んでください」

 だけど、彼女はにっこりと笑って再びそう言うのです。その憎たらしい笑顔はいつもと変わらない彼女のまま、あなたはぐうの音も出ませんでした。

「ふふっ、ありがと」

 あなたの溜息の傍らで、彼女は小さく笑い声を零しました。結局あなたは、今日も今日とて、我がままな彼女に振り回されっぱなし。


「さぁ、行きましょうか」

 そして、彼女はあなたに背を向けて歩き出します。彼女の履く下駄が石畳を叩き、カラコロと小気味の良いリズムを奏で始めました。

「早く早くっ!」

 両腕にのし掛かる重い荷物のためか、既に散々歩きまわった疲れのためか、あなたの歩みは随分と遅い。
 そんなあなたに、彼女は振り向き声を掛けます。柔らかな風が、彼女の前髪をさらりと撫でました。曇り一つない彼女の笑顔を見て、あなたはひっそりと思うのでした。
 ――あぁ、やはり彼女は綺麗だ――と。

 ~・~・~

「ふぅっ。ちょうど良い時間に着きましたね」

 ようやく空が暖かな暗闇に包まれようとした頃、彼女はいつの間にか手にしていた懐中電灯をあなたの顔に向けて笑いました。
 新しい電池を入れたばかりの無神経な灯りは、思わず顔をしかめてしまう程に強く明るい。だけど、あなたは正直なところ、そんな些細なことを気にしている余裕はなかったのでした。

 あなたたちが数十分に渡って歩いてきたのは、神社の裏の小さな山でした。でこぼことした荒れ道を、両手に重い荷物を提げて歩くのは大変な苦労。
 あなたは荒い呼吸を繰り返したまま、何故彼女がこんな道を知っているのか問いました。

「どうしてって、調べたからですよ? 地図を見て、目星を付けて、下見して」

 彼女の表情は、『それがどうした』とでも言わんばかり。何とも語呂良くあっけらかんとした口調で返されました。方向性が少しばかりおかしい活発さを見せた彼女の答えに、あなたは首を垂れるしかなかったのでした。
 彼女は、そんなあなたの様子など意にも介さず、濃紺に染められた空を見上げて人差し指を上げました。

「ここら辺にしましょう。あの辺りから、花火が綺麗に見えるはずです」

 あなたはようやく息を落ち着けると、改めて辺りを見回し始めます。
 夏は夜でも気温が高い。それでも、この草木が茂る小山の中では、幾分過ごし易いようにも感じられました。
 足元に生える小さな草花は、翠色の絨毯となって辺り一面に広がっています。その隙間から、気まぐれのようにまばらにそびえ立つ照葉樹は、決して空への視界を遮ろうとはしませんでした。
 あなたも空を見上げれば、小さな小さな一番星がひっそりとあなたたちをと見下ろしていることに気付きます。――なるほど、確かに良い場所だ――あなたは小さく息を漏らしました。


「さっ、ぼさっとしてないで。食べ物開けましょうっ」

 彼女にそう言われて、あなたはようやく自分が思いの外お腹を空かせていることに気付きます。両手に提げた袋から漂う香ばしい匂いが、あなたのお腹の虫を鳴かせました。
 彼女はその音に軽く笑うと、肩に掛けていたバッグから水色のレジャーシートを取り出して広げます。

「ほら、早く座って下さい」

 ――本当に準備が良い――あなたの苦笑いを尻目に、彼女は待ちきれないと言わんばかりに勢い良く座り込みました。あなたも、彼女の隣にゆっくりと腰を下ろします。

「最初はどれにしよっかなぁ」

 そして、彼女は頬を緩ませて笑うと、指から風船のゴムを外し、シートの上に袋の中身を積み重ねていきます。透明なパックで出来た塔が、今にも崩れてしまいそうな程に高く出来上がりました。
 彼女は本当によく食べる。焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、チョコバナナ、りんご飴、ほかにも沢山。こんなにも多くの食べ物が一体彼女の身体のどこに入るのか、あなたはいつも不思議でなりませんでした。

「ふふっ、いただきまーすっ」

 そして、彼女が両手を合わせてそう挨拶をした、その時でした。


「――わっ!?」

 突然辺りを包み込むのは、身体の芯まで響かせるような低く重い爆発音。そして、その後に響いてくるのは、パラパラと小さく連なった破裂音。
 彼女は思わず素っ頓狂な声を上げてしまいます。あなたたちが二人同時に空を見上げれば、赤、黄、青、その他沢山の光があなたたちを照らしていたのです。

「…………わぁ……」

 彼女は思わず大きく息を漏らします。そして、それはあなたも一緒。

 こんな人気のない山の中で見る花火は、あなたが今まで見たことがない程に大きく、だけど儚く、そして美しい。
 笛の音と共に打ち上がる白煙の筋は、色取り取りの光の筋を蒔き、そして共に消えてゆく。それが、いくつも、何度も。生まれた花々が次々と子を芽吹かせてゆくように。そして、子がまたその血を絶やさんとするかのように。
 力強く、淡く、美しい命の幻想。あなたは、しばしの間その泡沫の光景に目を奪われてしまいます。


「あの、さ……」

 そして、あなたを現実に引き戻したのは、突然左腕に訪れる僅かな重みでした。

「今日、来て……良かったと、思ってます?」

 気付けば、彼女があなたの服の袖をつまんで引いていたのです。
 花火に照らされたその表情は、どこか暗い。水色の浴衣に包まれた身体が、嫌に細く小さく見えました。まるで、彼女という存在が、空を照らす花火と共に消え去っていってしまうのではないか、そんな姿。
 あなたは思わず息を飲みました。

「やっぱり、その……。迷惑、でした……?」

 その問いかけは、あなたにしてみれば少々今更で意外なもの。それでも、彼女があなたの顔のすぐ前で眉をひそめていれば、それを聞き流すことも笑い飛ばすことも出来ません。
 彼女は、本気であなたに問うているのですから。


「あの……」

 彼女の目尻に僅かな涙が浮かんだ頃、あなたはようやく言葉を紡ぐのでした。
 迷惑な訳がない。こんなに綺麗な花火を見たのは初めてだ。今日ここに来て、本当に良かった。
 だから、ありがとう、と。

「…………」

 彼女の目が見開かれます。あなたが滅多に口にすることのなかった言葉に、あなた自身も、顔が熱くなるのを感じました。

 彼女は、強い女性でした。だけど、ちょっぴり我がままな女性でした。特に、あなたに対しては。
 それは、あなたにだからこそ見せられる姿だったのです。あなたが居るからこそ、もっと強く、もっと明るくいられる。あなただからこそ、どうしても頼ってしまう、甘えてしまう。
 彼女は強い。それでも、決して一人で生きることなど出来ないのです。

 彼女が、あなたにどうしても甘え過ぎてしまうこと。それに不安を抱いていたことを、あなたは今まで知らなかったのでした。


「……そっか」

 そして、彼女は花火を見上げて柔らかく微笑みました。空に打ち上がる花火に照らされた表情は、今も少しだけ控えめ。
 それでもそれは、強く、明るく、そして美しい笑顔でした。まるで、光を抱き続けた向日葵のように。


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